ミゼットを飼う?
――〔ミゼットⅡ〕
その後、日本の自動車市場は四輪軽トラックへとシフトし、ダイハツも1960年に「ハイゼット」を発売した。しかし、多くの自動車メーカーが軽オート三輪の販売を終了する中、ダイハツは1972年までミゼットの販売を継続した。
それから21年後の1993年、第30回東京モーターショーでダイハツは「ミゼットⅡ」を参考出品した。これが自動車業界に大きな反響を呼んだ。
そして1996年4月、「ミゼットⅡ」がついに発売された。ボデーサイズは当時の軽自動車としてもかなりコンパクト。丸みを帯びたフォルムに、ボンネットへ装着されたスペアタイヤ、そしてボデーから大きく張り出したヘッドライトとフェンダー。その姿は、初代ミゼットを彷彿とさせながらも、どこか玩具のような愛嬌を感じさせる、独特なデザインだった。
そして付けられたキャッチコピーが、「ミゼットを飼おう。」家族全員で移動するための“ファーストカー”ではなく、ちょっとしたお出かけを楽しむための“セカンドカー”。単なる移動手段ではなく、まるでペットのように可愛がってもらいたい―そんなコンセプトが込められていた。
ミゼットⅡは当初、見た目の可愛らしさや小回りの良さもあり、多くのユーザーから好評を得た。しかし2001年、ミゼットⅡは販売を終了する。それでも25年経った今なお、その独特なコンセプトとデザインを愛してやまないユーザーたちが、全国に存在している。
オーナーの数だけミゼットⅡがある
2026年のある日、ミゼットⅡ販売30周年を記念するオフ会の事務局から、「ミゼットⅡ販売30周年を記念してオフ会を開催するので、ダイハツ本社を訪問したい」との依頼があった。北は栃木県、南は高知県から、総勢33台ものミゼットⅡオーナーが集まるという。販売終了から25年。それでも、なぜ今なおミゼットⅡを愛し続けているのか。その理由を知りたく、我々探検隊もオフ会へ足を運んだ。
4月の青空の下、ダイハツ本社には色とりどりのミゼットⅡが次々と集結した。その愛らしい姿に、探検隊スタッフからは自然と歓声が上がった。すべて同じ「ミゼットⅡ」のはずなのに、一台として同じ外観のクルマはない。オーナーそれぞれの愛情によって、ミゼットⅡは独自の進化を遂げていた。荷台へサーフボードを積んだ車両、楽器のハープを運ぶための車両、中にはダンプ仕様へ改造された車両まであった。まさに、“オーナーの数だけミゼットⅡがある”。そんな言葉がぴったりの光景だった。
ミゼットⅡは「唯一無二の存在」
早速、ミゼットⅡオーナーの皆さんにインタビューをおこなった。畑仕事用にミゼットⅡを購入したというオーナーは、「個性的な軽トラックが欲しくて探していたところ、ミゼットⅡに出会った。細い道でもスムーズに走れるし、思った以上に荷物も積める。本当に重宝している。」と笑顔で答えてくれた。
また、ご夫婦で参加されたオーナーは、「この丸みを帯びたデザインが可愛い。こんなクルマ、他にない。“いかにもダイハツ”って感じが好き。」と語る。
さらに、複数台のミゼットⅡを所有しているオーナーは、「ミゼットⅡの魅力は、“手がかかるところ”。古いクルマだから故障もある。でも、それも含めて愛おしい。まさに唯一無二の存在。」そう語る表情は、まるで長年連れ添った家族について話しているようだった。
ミゼットⅡを通じて広がるなかまの輪
長年ミゼットⅡを愛用されているオーナーにもお話を伺った。少年時代、街を走るミゼットに憧れ、ミゼットのミニカーを買ってもらったという。しかし1959年、伊勢湾台風によって自宅は全壊。大切にしていたミニカーも失ってしまった。
それでも、ミゼットへの憧れだけは消えなかった。そして1996年、ミゼットⅡ発売の知らせを聞いたオーナーは、「絶対に欲しい」と思い、すぐに購入を決意したという。
それ以来、全国のミゼットファンたちと交流を深めていった。時には、東日本大震災の際に泊まる場所がなく困っていたところ、ミゼットユーザーが自宅へ泊めてくれたこともあったそうだ。「ミゼットを通じて、本当にたくさんのなかまと出会えた。ミゼットには感謝しかない。子供の頃から、ミゼットへの愛情はずっと変わっていません。」
オーナーそれぞれに、ミゼットⅡとの思い出がある。畑仕事を支える相棒として。休日を楽しむセカンドカーとして。そして、人と人をつなぐ存在として。販売終了から25年が経った今でも、ミゼットⅡは、それぞれの暮らしの中で走り続けている。
現代社会における小型モビリティの役割
――〔ミゼットX〕
昨年10月に開催されたジャパンモビリティショー2025で、ダイハツはコンセプトカー「ミゼットX」を発表した。各自動車メーカーが近未来的なコンセプトカーを打ち出すなか、なぜダイハツは再び“ミゼット”という名前を掲げたのか。その背景を探るため、ミゼットXのデザインを担当したダイハツデザイン部のメンバーに話を聞いた。
今回のモビリティショーは、ダイハツが再出発して初めて迎える大きな舞台であった。そうした節目において、ダイハツらしさを象徴する存在として着目されたのが、原点とも言える“ミゼット”だった。
コンセプトは“暮らしから考えたモビリティ”
デザイン企画を担当した松原さんは、プロジェクトの出発点についてこう語る。「まず、“今の時代にミゼットがあるなら、どんな役割を持つべきか”を徹底的に考えました。」
デザインチームが着目したのは、子どもを送り迎えする保護者たちの日常だった。「前後に子どもを乗せて自転車を走らせている姿を見て、“もっと安全で、もっと気軽に使える乗り物が必要なのではないか”と感じました。
一方で、“クルマを運転すること”自体に心理的ハードルを感じる人もいます。だからこそ、自転車のような気軽さと、クルマならではの安心感を両立できないか。その発想からミゼットXの方向性が生まれていきました。」
その考えの象徴が、“3人乗り”というパッケージだ。“4人乗りでなければならない”という固定観念を一度取り払い、本当に必要な人数や使い方を見つめ直した結果、“保護者1人と子ども2人”という日常の移動シーンにたどり着いたという。
エクステリアデザインを担当した御前さんは、デザインのこだわりについてこう語る。
「フロントウィンドウは、運転時の視界の良さを重視して設計しました。ただ、それだけではなくて、ウィンドウのコーナー部分にはミゼットのイラストを入れています。知っている人だけが気づくような、ちょっとした遊び心ですね。」
さらに、ドアノブは一般的なクルマのようなハンドル式ではなく、“家のドアのように回して開ける”形を採用。
「クルマに慣れていない人でも、直感的に触れやすい形にしたいと考えました。」
インテリアデザインを担当した大橋さんは、「運転席のシート横には、お菓子を入れるボックスを作りました。
他社なら、そこに充電システムが入っているかもしれない。でも、そういう“暮らしに寄り添う遊び心”がダイハツらしさだと思います。」と笑顔で話してくれた。
また、CMF※を担当した伊藤さんは、「“ポップで楽しい”雰囲気にはしたかった。でも、大人が見てもチープには見えない。そのギリギリのバランスをかなり意識しました。」と、親しみやすさを持ちながらも、生活の中に自然と馴染むデザイン、その絶妙なバランスを追求したという。
※Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の略
ミゼットXは“半歩先”の未来
ミゼットXの総指揮を担当した田辺さんは、デザインコンセプトについてこう語った。
「ミゼットXが目指したのは、“人が自然に親しめるクルマ”。先端感は出したい。でも、“数歩先の未来”ではなく、“半歩先くらいの未来感”を意識しました。
“自転車からそのまま乗り換える感覚”を大事にしたかったので、“クルマらしさ”はあえて減らしました。一方で、子どもを乗せても安心してもらえるよう、“ちゃんと守られている安心感”とのバランスもかなり考えました。」
さらに田辺さんは、こんなことも話してくれた。
「ダイハツって、“自動車っぽくないこと”を許されるブランドだと思っています。他社さんがやらない、“見た瞬間に笑顔になれる感じ”を大事にしたかった。」
その言葉に、周囲のデザイナーたちも自然と笑みを浮かべた。
“人に寄り添うこと”を真剣に考えながら、同時に“人を笑顔にすること”も忘れない。
そんなチームの空気感が、ミゼットXというクルマに表れているようだった。
ミゼットからミゼットⅡ、そしてミゼットXへ
ダイハツが受け継ぐ「挑戦のDNA」
初代ミゼットからミゼットⅡ、そしてミゼットXへ。
それぞれ時代は違っても、“人々の暮らしに寄り添う小さなクルマ”という思想は、変わることなく受け継がれてきた。
高度経済成長期には、“働くための足”として。
1990年代には、“飼いたくなるクルマ”として。
そして現代では、“多様なニーズに応えるモビリティ”として。
ミゼットは、姿や役割を変えながら、人々の暮らしと共に走り続けてきた。
“どんな人が、どんな場面で困っているのか。”
その問いに向き合い続けてきたからこそ、ミゼットは70年経った今でも、多くの人の記憶に残り続けているのかもしれない。
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この記事の登場人物

ダイハツ探検隊 隊長
若林さん(「三つの誓い」改革推進部)

ダイハツ探検隊員
櫻木さん(DX推進部)

ダイハツ探検隊員
齋藤さん(VC事業部)

ダイハツ探検隊員
若林さん(車両開発部)

ダイハツ探検隊員
田中さん(ユニット生技部)

ダイハツ探検隊員
藤原さん(TAR生技部)

ダイハツ探検隊員
江間さん(流通企画部)

ダイハツ探検隊員
川北さん(総務部)

ダイハツ探検隊員
石田さん(コーポレート企画室)

ダイハツ探検隊員
上垣内さん(コーポレート企画室)
