ダイハツがトヨタとタッグを組み挑む、新たな挑戦の舞台・ブラジル。
2025年12月に量産、2026年2月に販売を開始した新型ヤリスクロス。その舞台裏を、インナーコミュニケーション室(兼務)の芦田が現地で取材しました!
ダイハツとブラジル
2016年8月、ダイハツ工業株式会社(以下、ダイハツ)はトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)の完全子会社となりました。そこから約10年。トヨタとダイハツの協業は日本国内にとどまらず、東南アジアを中心に海外でも着実に広がっています。
今回の舞台はブラジルです。1959年から車両生産を開始したToyota do Brasil Ltda.(以下、TDB)で、新たにトヨタとダイハツの共同プロジェクトがスタートしました。2026年現在、12人のダイハツ社員が現地に出向し、日々奮闘しています。
両トップのもと、現地メンバーとともに協業が進んでいます。
ブラジルの自動車市場
ブラジル市場は、南米最大級の規模と人口を有し、Bセグメント(コンパクトカー)以下の需要が大きいことに加え、SUV市場も拡大しているのが特徴です。こうした市場特性は、コンパクトカーや小型車づくりを得意とするダイハツの強みと親和性が高く、東南アジア市場にも通じるものがあります。
さらに、ブラジルは南米全体のハブとしての役割も担っており、ここでの取り組みは周辺国への展開にもつながる可能性があります。こうした市場のポテンシャルを踏まえると、ブラジルはダイハツにとって、これまで東南アジアで培ってきた協業の経験を活かしながら、新たなチャレンジに挑む重要な舞台と言えるのです。
協業の可能性を切り開いたFS活動
ブラジルでのトヨタ・ダイハツ協業。その裏には、粘り強く積み重ねてきたFS(実現可能性調査)活動がありました。
事業企画部の小谷さんに、当時のFS活動について伺いました。
2019年、排ガス規制強化が協業のきっかけに
今回のプロジェクトは、ブラジルでの排ガス規制強化を受け、トヨタ内で「ブラジル製NRエンジンを使った競争力のある車両も候補に入れたい」という声が上がったのがきっかけでした。ダイハツとしても、競争力の面で貢献できるのではと考え、プロジェクトに参画。まずは市場調査や現地調達化(以下、現調化)の可能性を探るため、設計・調達・生産それぞれの立場から現地サプライヤー様やTDBの工場を訪問しました。
2020年、コロナ禍でもリモートで仕様・価格を詰める
新型コロナの影響もあり、現地とはリモートでのやりとりを余儀なくされました。サプライヤー様には図面を共有した上で見積もりを依頼し、TDBにはダイハツの進め方への理解を深めていただくため、ダイハツの工場の動画を共有。また、当時のトヨタ中南米本部長の井上さん(現ダイハツ社長)にも予算性や、ダイハツならではのシンプル・スリム・コンパクト(SSC、後述)について 説明を重ねました。
2021年、現地出張でコストダウンを勝ち取る
世界的に渡航が厳しく制限されるなか、リモートでの対応には限界がありました。そこで、トヨタの特別許可を得て、見積もりの内容を確認するため現地へ向かいました。現地では工場やサプライヤー様を訪問し、その後はホテルでコストを積み上げながら検証を実施。部品や構造の設計変更が必要と判断した際には、トップの合意まで得ながら臨機応変に対応しました。
厳しい環境をなかまと乗り越え
食事は、飲食店が閉まっているため毎日ウーバーイーツ。休日には、ブラジル特有のバイオ燃料であるエタノールへの理解を深める意味を込めて、サトウキビ畑を散策。厳しい環境ではありましたが、ダイハツとトヨタ双方のなかまに支えられて乗り切ることができ、「人生でトップレベルに楽しい仕事」でした。こうして計6か月にわたるFSで採算性を示し、井上さんとともに提案を行った結果、現地での協業が決定しました。
現場確認と信頼が成功の鍵
このプロジェクトを通じて感じたのは、困難な状況にあっても、現場での地道な確認と、互いに信頼し合えるなかまの存在があれば、成功につながるということです。みんなで一歩ずつ壁を乗り越え、協業を形にできたことを誇りに思います。
現地での協業の開始
数々の奮闘の末、ダイハツの次なるチャレンジとして、2022年からブラジルでの協業が本格スタートしました。ここからは、現在も現地へ出向し奮闘されている吉川さんにお話を伺いました。
ダイハツ流のモノづくり
私はTDBとの関わりが長く、小谷さんとともに2019年のFSからプロジェクトに携わっています。 2019年には現地で仮説を立てて企画を練り、2021年には各職種がサプライヤー様やTDBとともに実証を重ねながら提案書へ落とし込み、2022年には出向員がそれを実行に移しました。企画から実証、そして実行へとつなげていく、この一連の流れこそがダイハツの強みだと感じています。 出向にあたっては、井上さんをはじめとするTDBトップから「トヨタとダイハツのいい所を掛け合わせてほしい」というミッションを受け、工場担当のTDBヨシムラさんと活動を始めました。
SSCの本質を伝える
ダイハツのやり方であるシンプル・スリム・コンパクト(以下、SSC)は、現場では「治具が小さくなった」「レイアウトが小さくなった」といった表面的な理解に留まりがちです。しかしSSCは、単なる設備を縮小するための手法ではなく、トヨタの基礎である[4S5定]を徹底した上で成り立つ考え方です。重要なのは、その根底にあるチャレンジする姿勢や現場の自律性です。我々は「ダイハツのやり方はトヨタの文化と矛盾しない、本質は同じ」ということを、言葉を尽くし、対話を重ねて伝えてきました。この積み重ねにより、少しずつダイハツの良さをご理解いただき、今回の協業が形になりました。
縁の下の力持ち!インダイアツーバ工場メンバーの支援
今回取材したソロカバ工場でのプロジェクトの裏には、同TDBのインダイアツーバ工場の存在が必要不可欠でした。彼らはSSCを率先して受け入れ、実証を重ねながらそのノウハウをソロカバ工場へ展開してくれました。この陰の努力があったからこそ、現在の生産体制があるのです。今回の協業は、インダイアツーバ工場の前向きで地道な取り組みがあって初めて実現できた——そのことを、ぜひ記しておきたいと思います。
新型ヤリスクロスで加速する協業
2025年、ブラジルで活況を呈するBセグメントSUV市場に、新型ヤリスクロスを投入。ブラジル市場にジャストフィットする良品廉価なクルマづくりと現調化を実現するため、ダイハツは開発・調達・生産の各領域で、トヨタとの“ワンチーム”としてプロジェクトを支えました。その中でサプライヤー様強化の要であった「三位一体活動」をリードした菰渕さんにお話を伺いました。
新型ヤリスクロスを支えた三位一体活動
サプライヤー様のコスト改善と基盤づくり
ヤリスクロスのプロジェクトでは、サプライヤー様の競争力向上を目的に三位一体活動を立ち上げ、そのなかで生産技術チームのリーダーを務めました。途中からは開発のプロジェクトリーダーも兼任し、TDBの皆さんとともにヤリスクロスを競争力あるクルマへと仕上げられたことは、大きな達成感につながりました。
SSCの考え方を現地に根づかせる
もう一つの成果は、ダイハツのSSCの考え方をサプライヤー様にも展開し、継続的に改善を進められる土台を築けたことです。SSCはゼロベースでの進め方であるため、部品軸や予算性への理解を得ることは容易ではなく、何度も壁にぶつかりました。 それでも対話を重ねた結果、最終的にはサプライヤー様にもSSCの考え方に納得いただき、改善を続けられる状態をつくることができました。
現地現物で課題を共有・解決
サプライヤー様の品質の状況や見積もりの妥当性を判断する際は、机上で検討するだけでなく、必ず現地に足を運び、工程や設備の実態を一緒に確認させていただきました。TDBの皆さんとともにサプライヤー様の現場に深く入り込み、課題を一緒に見つけ、一緒に解決していく。その積み重ねが、今回の成果につながったと感じています。
「人を強くする」継続改善へ
プロジェクト単位ではなく、「働く人を楽にし、人を強くする。そしてサプライヤー様自身が強くなり、幸せになる」という視点で提案を重ねてきました。その結果サプライヤー様の中に自発的に活動を続ける文化が生まれ、現地に合った三位一体活動として定着させることができました。
ブラジル現地で伝える熱い想い
さまざまな経緯を経て進んだトヨタ・ダイハツの協業。その成果を象徴する[SSCの工場定着]と[三位一体活動]。地球の裏側ブラジルで今も奮闘するダイハツ出向員とTDB現地メンバーの姿を、インタビュー動画でご覧ください!
南米の大地に刻む、新たなダイハツの足跡
ブラジルは、決して“遠い海外”の一つではありません。ダイハツがこれまで培ってきた強みを活かしながら、トヨタとともに新たな価値づくりに挑む、次なる大きなフィールドです。
現地では、SSCの定着や三位一体活動を通じて、ダイハツ出向員とTDBのなかまたちが日々、試行錯誤を重ねながら、一つひとつ成果を積み上げています。
本記事では、なぜダイハツがブラジルに挑戦するのか、トヨタ・ダイハツの協業のなかでダイハツがどのような役割を担っているのかを、現地の声とともにお伝えしてきました。少しでもブラジルを身近に感じ、興味をもっていただけたなら幸いです。
ブラジルで奮闘するなかまの姿は、ダイハツの挑戦が今も広がり続けていることの証です。私たちもその歩みに寄り添い、一緒に次の一歩を踏み出していきたいと思います。
文:インナーコミュニケーション室(兼務) 芦田
取材:2026年3月